2019年8月24日土曜日

「第6回神志那弘志の実践パース講座」アフターレポート

2019年7月28日(日)、「第6回神志那弘志の実践パース講座」が行われました。 令和初の「パース講座」ということで、今回は初心に帰って「初級編」です。それでも80名近い受講者が集まり、改めて「パース講座」の需要の高さが窺えました。 定時になり「あにれく」代表の奥田誠治氏の挨拶に続いて、神志那弘志氏が登壇し開講です。




まずはこの講座の意義について。「図法を教えるつもりはない。3時間で教えられるものではない」と語る神志那氏は、 この講座で教えるのは「仕事で使えること」と「その際に押さえるべき要点」であると言います。

コンテを見てレイアウトを描く時に重要なのは、カメラの高さとその置き場所です。 まずはそれを見極めることから学んでいきます。配布された今回のテキストには、似たような構図の絵コンテが2コマ描かれていました。画面中央にバストサイズのキャラクターがいるのは同じなのですが、カメラが広角のもの(会話している雰囲気)と望遠のもの(待ち合わせしてるポーズ)です。 それぞれ同じような画に見えますが、レイアウトとしては別物になります。神志那氏曰く「レイアウトでキャラの配置はできるけど、背景が漠然としてしてる人が多い」。そのコンテが何を表してほしいのかを汲み取ってレイアウトで表現することが大事、とのこと。二つのレイアウトの違いを、まずは見取り図で考えてみます。



中央には同じサイズのキャラを描くのですが、カメラとの距離によって背景の入り込んでくる情報量が変わってきます。 極端な望遠であれば、例えば手前の人と奥の人が同じサイズになったりしますし、背景の情報量もぐっと少なくなります。



 広角と望遠のカメラの違いを説明したところで、実践編です。今度はテキストのコンテからカメラの角度を変えてレイアウトを描いてみることに。 テキストのコンテだと壁が正面でしたが、今度は斜めになり、壁の切れ目が画面に入ってきます。神志那氏は、斜めになった壁を描く時の手がかりとして、 キャラクターを定規として使うことを提案します。 まずは画面奥に手前のキャラを小さくして置いてみて、アイレベルを求めます。アイレベルはカメラの高さです。アイレベル上にあるものはつねに同じ高さになりますので、奥と手前のキャラで同じ高さの部分を見つけます。見つかったアイレベルを基に、背景を描いていきます。



ここでポイント。仕事としてレイアウトを描く場合、背景(原図)はザックリでいいとのこと。 きっちりパースをとって原図を描くようなカット(マスターショットなど)は全体の1割くらいだと言います。 重要なのは、アイレベルと光源。それ以外のディテールは美術さんに任せることで、数をこなせるようになるそうです。 特に強調していたのは「パースにとらわれすぎないように」。

よくある例として、BGが空のみのアオリ構図、フォローのカットのレイアウトを取り出してみせました。空に引かれたパース線を指して、「何のパースを引いてるの? 」。対象物のない空に引かれたパース線は何の基準にもなりません。仕事である以上、無駄な作業は極力避けるべき。意味のないパース線を引くことも無駄な作業ということです。



話は「そもそも消失点とは何か」ということになっていきます。本来画面上にある、ひとつひとつのものに固有の消失点があるはずです。 なのに、全てのものをひとつの消失点に収束するように描いてしまうので変な絵になってしまう。いろんな角度でものが置かれている画面は、リアルで見栄えがします。「柔軟なレイアウトを描けるように」とのことでした。

広角と望遠の違いがわかったところで、今度は三点透視について。 まず、三点透視で何を描くのか。ビルなのか、テーブルの上の箱なのか、サイズ感を考えて描くことが大事です。 俯瞰の三点透視の場合、下方の消失点は自分(カメラ)の足元=真下になります。 直線で引いていくと、本来直角なはずなのに鋭角すぎる絵になってしまう。 なぜなら、人間の目の画角を越えたところを描いているからです。



ここで実践編、その2。 魚眼レンズで見たエレベーターの中の画が、テキストで配られています。監視カメラの映像などでよく見る画です。 そのテキストにパース線を引いてみるというもの。 当然直線では引けません。パースが丸みを帯びて歪んでいく感覚を実際に書いて理解していきます。

と、さらに実践その3。「並んだ机を描く」という課題ですが、基準となる正面向きの机が画面右端に描いてあるので、左に机を二つ追加していくと画角を越えてしまいます。机が歪んでいく(直線で描けない)ことを考えて描いてみようというものです。 この課題には受講者もかなり苦戦しているようで、休憩を挟みつつ、時間を長めにとって描いてもらっていました。


そのまま終了時間が迫り、質問タイムへ。 改めて、アイレベルの出し方やカメラの置き位置の求め方などの補足説明を行いながら、神志那氏は「いろんなやり方があります。今回紹介したのは、あくまでも自分が実践しているスピードアップのやり方です」と付け加えます。さらに「パースにこだわり過ぎて『絵を描く』ことを忘れないでほしい」「極論ですが、絵として成立していればパースがしっかりしていなくてもいい」とも。「面白くウソを見せるのもアニメーターの腕前です」とまとめたところで講座は終了。

その後、多くの受講者が参加した親睦会は、終始和やかな雰囲気でした。
あにれくスタッフの紹介もあり、スタッフに声を掛け話し込む受講者も多く見られました。








今回受講していただいた皆様には、スタッフ一同より改めて御礼を申し上げます。
ありがとうございます。