2022年3月21日月曜日

『絵コンテを切る!!』第19回(終)

ども、博多です。


いよいよ、この講座も最終回です。


兎にも角にも、商業アニメの世界で長らく絵コンテマンとして飯を食っていくためには、「スケジュールを守り」「現場に迷惑をかけない」ことが必須です。

独りよがりな仕事を続けていると、徐々に、目に見えて依頼が来なくなります。

多分。


……経験した事ないのでね(軽い自慢)。



【基本中の基本】として、アニメーション制作は集団作業です。


自分が切った絵コンテを、現場で何十人もの人が見ながらフィルムを作っていくことになります。

その現場で「何が描いてあんの?」「何が言いたいの、コレ?」みたいな絵コンテは、使えないコンテということになります。


「切っている自分だけ分かっていればいいんだ。黙ってこの通り作ってくれたら素晴らしいフィルムになるから。フィルムになった時に見れば分かるから」的な発想で描き飛ばしたコンテは、絶っっっっっっっ対にちゃんとしたフィルムにはなりません。

なりゃしません。

なるわけがない。

各部署、作業者一人一人の情熱や想いが込められていき、フィルムのテンションは上がっていくものですから。



私は演出処理もやっていますが、いつも心掛けているのは、関わった全てのスタッフに「参加できて良かった」と思ってもらえるようなフィルム作りを目指す、ということです。

関わったことを後悔させないフィルム作りを目指すということです。

なんなら、後で自慢して欲しいくらいの。


……まあ、そんなフィルム、まだ作れた事ないんですけどね。


とはいえ、

誰でも、やっていて、やり終えて、気持ちのいい仕事をしたいという想いはあるはずです。

そして、スタッフがそう思えるフィルムは絶対に面白いに決まっていますし、その想いは視聴者にも届くはずです。



閑話休題。


絵コンテはフィルムの屋台骨です。

つまらない絵コンテから面白いフィルムは出来ません。

そして、面白い絵コンテはスタッフの熱量を上げる最初のキッカケになります(それ以前に、シナリオが面白いことも大事ですが)。

フィルムのクオリティを左右するのも絵コンテだということを忘れずに。

それだけ重要な仕事を任されている、という自覚を持って絵コンテを切っていきましょう。


慣れてくると、こんなに楽しいい仕事はありませんよ。




さてさて、

これまで絵コンテを切る前の準備、切っている時の心構えをいろいろと説いてきましたが、最後の最後に一番大事な事を言っておきたい。

この気持ちがなかったら、絵コンテ切っちゃダメとまで敢えて言い切ってしまいましょう。


それは、


世界一素晴らしい、メチャクチャ面白い、自分の代表作となる、絵コンテを切る!



これに尽きます。



……ハイ、そこ、目が点になってますよ!



これは冗談も何でもなく、本気でそう思って絵コンテを切って欲しい。


そして、

出来上がって納品する時には自信満々に「どうだ、このコンテを見て驚きやがれい! 修正出来るもんならやってみろってんだい!」くらいの気持ちを持っていて欲しい。


私は常にそんな気持ちで絵コンテを切り、納品しています。

「やべえ、日本アニメの歴史を変えちまった!」

「これが放送されたら、次の日から話題沸騰だろうな!」

「やれやれ、周りが騒がしくなるぜ」

などと。



……ええ、ええ。

もちろん、分かっていますとも。

これは錯覚だし、自惚れだし、完全に「井の中の蛙」だってことは。



でもね、

そういう気持ちで納品しないと失礼じゃないかと思うんです。


自分は今現在、この絵コンテが最適解であり、一番面白いものであり、監督や現場が必要としているものだと思っているからこそ納品できるのです。

逆に言えば、面白いとも思えない、不完全なものを納品できるわけないじゃないですか。


自己陶酔、錯覚でもいい。

まずは自分が一番面白いと思う絵コンテを切ることが最重要です。


生み出した自分が面白くないのに、他人が面白いと思うわけないじゃないですか。

1ヶ月なり、七転八倒しながら悩み抜いて生み出す絵コンテがつまんなかったら、それはもう悲劇ですよ。



だから、

自分が面白いと思うことについては諦めちゃいけない。

妥協しちゃいけない。

面白いと思える表現まで辿り着かなきゃいけない。




自分が愛せる絵コンテを切ってください。





……以上、『絵コンテを切る!』でした。


長らくお付き合いいただきまして、ありがとうございます。




では、また。




博多


2022年3月11日金曜日

『絵コンテを切る!!』第18回

 ども、博多です。


さらに、絵コンテをカキカキしながら心掛けておきたいことの続きです。


基本的に、映像を作る時には「無駄なカット」を極力排除していきます。


それは予算的なことでもあるし、尺的なことでもあります。

商業アニメの宿命として、決められた尺内に収め、無駄な予算を掛けずに、スケジュール内にキチンとフィルムを納品しなければならない。

そのためには、1カットたりとも「無駄なカット」を作るわけにはいかない。


だからといって、

脚本の文章をそのまま絵に起こせばいいかというとそういうわけでもない。


ト書きには書かれてない脚本家の意図を汲み取って、キャラクターの演技や間、空気感をちゃんと見せないといけません。


そして、初めの頃は、

それらを全部ブチ込んで絵コンテを切っていくと「必ず」とんでもなくオーバーします。

尺もカット数も。

これはほぼ間違いなくそうなります。

ヒドいと300カット想定のシナリオで500カットとか上げてきちゃいます。


そんでもって、切っている本人曰く、「全て必要なカットです」。


……本当にそうでしょうか?



コンテを切っている時は夢中で気づかない事が多いのですが、一度冷静になって「なぜそのカットはそうなのか?」と自分に問い掛けてみましょう。

「そのカットは何を表現したいの?」「そうじゃないといけない理由は?」と。


例えば、キャラクター。

なぜ、この時間帯にそのキャラ(たち)にカメラを向けるのか。

なぜ、その画角じゃないといけないのか。

なぜ、そんな表情なのか。


例えば、カメラアングル。

なぜ、俯瞰(アオリ)でなければいけないのか。

なぜ、PANさせるのか。

なぜ、TUTB)が必要なのか。


例えば、背景。

なぜ、このタイミングでそこを見せる必要があるのか。

なぜ、その尺で見せる必要があるのか。


理想を言えば、全カットに明確な理由があってそれを説明出来なければいけない。


ま、300カットもあったら、都合で尺を埋めたり、シーンの間を繋いだり、カットとカットの間にクッション的に入れるカットもあったりするので、何カットかは「?」のカットもあったりしますけど。


とはいえ、

そのカットの目的は明確でなければいけません。


すると、あら不思議。

今まで「必要なカット」だと思っていたカットが、「蛇足カット」や「雰囲気だけのカット」に早変わりしちゃいます。


逆に言うと、

「一見、必要なカット」でも本当に必要かどうかを疑って掛かり、「絶対に外せない必要なカット」としてどれだけ絞り込めるか、が肝要なのです。

監督チェックやカッティング時に、簡単に「欠番」をバンバン出されるようなコンテは、まだまだ推敲が足りないということです。



絵コンテをカキカキしながら常に心掛けておきたいこと。

それは「今、何を目的にしたカットを作っているのか」。

超大事。



そして次回、やっとこさ最終回。

……まとめます。



では、また。



博多

2022年3月1日火曜日

あにれくのあぶく:徐傳峰 2022年3月1日

 おすすめの本:小津安二郎「僕はトウフ屋だからトウフしか作らない」




 どうも、徐です。中国から日本へ来て色々勉強中の新人演出です。

 僕は日本アニメや映像が好きで、その中で特に小津安二郎監督が好きです。そして小津監督は今の日本アニメにかなり大きく影響を与えていると僕は思います。


 僕は色々なアニメでローアングルが多用されていると感じています。新人がレイアウトを描き始める時、必ずローアングルのアイレベル知識を教えたりしています。(会社によって違いますが、僕の周りではローアングルが多いと感じています。。)

 本日を紹介する本ですが、残念ながら、小津監督のレイアウト術などではなく、自伝みたいな本です。今読んでいる君にはきっと「なんだ、レイアウトと関係ないのかい!」と思うでしょう。でも、僕はレイアウトより、こうした人生の歩き方の本の方が仕事の役に立つと思います。


 著者の小津監督の話をお借りしますが「映画には、文法がないのだと思う。これでなければならないという型はない。優れた映画が出てくれば、それが独得の文法を作ることになるのだから、映画は思いのままに撮ればいいのだ」。なので、監督により、映像の語り方が変わったりするのも当然のことになります。

 そしてこの本、全編特に大きな理論やルールを教えてはいないですが、小津監督からこの世界を覗く目線や考え方を色々語っています。



 僕はこう思います。

 映像の文法はその映像の監督がこの世界を見る見方そのものではないでしょうか? これこそ最強の演出術なのでは?

 なので、今ブログを読んでいる君に、この本をおすすめします。


 尚、このアニメ業界で色んな作品で苦労してきたアニメーターにとって、小津監督の人生の歩き方も一つ励ましの良い薬になると僕は思います。先輩たちからいやなことをやらされ、途中アニメをやるかどうか、自分の人生の道どうやっていけるのかを悩んでいる君に、この本をおすすめします。

 まあ、「ちゃんとしたアニメーターや演出は全てのジャンルの映像を作れないといけない、これこそプロじゃないか?」の先輩の理論より、意地を張って、「僕はトウフ屋だからトウフしか作らない」と自分に聞かせ、心の余裕を作りませんか?