2021年8月28日土曜日

『絵コンテを切る‼︎』第9回

 ども、博多です。


さて、シナリオを読み込み、「山場」を設定したら、今度はコンテ全体のバランスを考えます。


私がまずやるのは、「各シーンの想定カット数の設定」です。

TVシリーズ作品には必ず放送用の「フォーマット」があり、決まった秒数つまり「総尺(または定尺)」があります。

これはガッチリ決まっていて、気分で数秒伸ばしたり縮めたり出来るものではありません。

なので、ここに収まるような秒数で絵コンテを切る必要があります。


「収まる」と言いましたが、基本的には「カッティング」という編集作業が控えていますので、少し長めに作っておいて切ってもらうのが通例です。

カッティングで切れる秒数は、30〜60秒前後。

それ以上長いとカッティングで、演出家と監督が編集さんと一緒に頭を悩ますことになります。

逆に短いと、伸ばしどころを探すことになります。

「尺を伸ばす」のも意外と難しい。

編集さんは基本的にフィルムにテンポを求めます。

変な「間」を嫌うので、「特に意味のない間尺」はカッティングではガンガン落とされます。

そうすると、最初に想定していた「総尺」よりも短くなっていきます。

じゃあ、どこを伸ばそうかとなった時に、全体で「切り揃えた」テンポの中に、妙に間の長いシーンが出来てしまうわけです。


余談として。

絵コンテで想定した「尺(各カットの秒数)」は当然、監督チェック時に変更されることがあります。

さらに、演出家がカッティング素材を作る場合、その監督チェック上がりのコンテ尺から変えることもしょっちゅうあります。

なので、「絵コンテ上の尺」はあくまでも目安です。

もちろん、そのまま使われることもあるので、いい加減につけていいものではありません。


で、

「定尺」よりも30〜60秒くらい多目のコンテを切っていくわけですが、そのためには「カット数」の把握が関わって来ます。


各作品には「定尺」同様、このくらいのカット数で収めてほしいという「想定カット数」があります。

これは制作予算に直結する問題です。

なぜなら、日本のTVシリーズアニメのほとんどが、「1カット◌◌円」という単価で原画を発注しているからです。

制作費から原画費を割り当て、原画マンに仕事を出しているわけですが、カット数が多ければ多いほど予算を圧迫します。

制作としては毎話数、ある程度決まったカット数の中で作りたいわけです。


この「定尺」と「想定カット数」は、「コンテ打ち」の際に、制作から伝えられます。

そして、「想定作画枚数」も。


その時に、「どのくらい動かせそうか」「どんなテンポのフィルムになりそうか」「カット割りは細かく出来そうか」がなんとなくイメージ出来るようになると、色々と捗ります。



閑話休題。


ここで最初に述べた「各シーンの想定カット数の設定」です。

この「総尺」を「想定カット数」で割ります。

すると、こんな感じの式ができます。


例)

1200秒(総尺)÷300カット(想定カット数)=4秒


つまり、「1カット=4秒」でこの作品のコンテを切ればよい、というわけです。

もちろん、「全カット4秒のコンテ」を切るという意味ではありません。

「全カットの平均秒数がおよそ4秒で300カット前後のコンテ」を切るということです。


この「目安」が重要になってきます。



長くなりそうなので、次回に続けます。


では、また。




博多

2021年8月24日火曜日

あにれくのあぶく:ヤマト 2021年8月24日

 ご無沙汰しています。

ヤマトナオミチです


以前の本紹介で出された本が近年はプレミア付いて高額だと言う話で


今回はそこまでじゃない本の紹介です。


自分は近年マクロスデルタと言う作品の各話コンテ演出として参加し。その後劇場作品としてマクロスデルタ劇場版激情のワルキューレと言う作品で演出を担当して、今現在マクロスデルタ絶対live!!!!!!の副監督として鋭意作業中です。


折角ですので初代マクロスのオススメ本を紹介します。





マクロスパーフェクトメモリー

1983年out10月号創刊






みのり書房より発行されています。


中には当時のキャラデザ、メカデザインだけでなくラフスケッチやカラーページにレイアウトも少しですが載っています。

当時のスタッフのインタビューや寄稿も載っていて胸が熱くなります。


宜しかったら手に取ってみてはどうでしょう。


ではではまたの機会に次からはもう少し気軽な記事も書きたいと思います。




ヤマトより。



2021年8月18日水曜日

『絵コンテを切る‼︎』第8回

ども、博多です。

「山場」のお話。

「山場」を強調するために「平場」をたっぷり用意する、と言いましたが、それはストーリーがきちんとしている場合の話です。
ドラマに盛り上がりがあり、セリフに聞かせどころがあって、それだけで間が持つ場合です。

悲しいことに、「どうしようもない」シナリオに当たるケースがあります。

特に(シナリオの)山場らしい山場がない。
シリーズ中の大きな話の、完全に「承」の部分だけである。
話のピントがぼけていて、何を言いたいのか分からない。
何度読んでもシナリオの「核」が見えてこない。
セリフが何を言ってるのか分からない。
などなど。

こうなってくると「山場」の設定が難しく「平場」との配分も変わって来ます。
頭を切り替えて「目で楽しませる」コンテに徹して、視聴者を飽きさせない工夫をしましょう。

キャラをガンガン動かし、凝ったアングルのショットを作り、テンポよくカットを切り替え、「何だか分からないけど面白そう」なフィルムを目指しましょう(笑)。


逆に言うと、
シリーズの流れ的に大して重要でもない話が、やたらテンションが高くて作画がゴリゴリ動いていたら、そういうことかもしれません。


コンテを切り始めた人が陥りがちな「全部山場」の罠。
56分くらいのミュージックビデオやショートフィルムくらいならアリかもしれません。

とにかくこれだけは覚えて帰ってください。

「山場」のセリフは頭に入ってこない。



では、また。


博多

2021年8月3日火曜日

『絵コンテを切る‼︎』第7回

 ども、博多です。


前回の続きです。


頭の中で描いた「完全なる理想形」の映像を絵コンテに落とし込む時には、ある程度「現場のキャパシティ」を想定しないといけません。

ずっと動きっぱなしというわけにはいかないし、止め絵だけのフィルムなんてのもあり得ません。

やはりメリハリが大事です。


となると、前回定義した「山場」をどこに設定するか肝(キモ)になってきます。

大抵の場合、シナリオには「起」「承」「転」「結」があります。

その中で「起」と「転」の部分が「山場」になることが多いです。


「起」はつかみの部分。

最初に思い切り動かしておいて、「動いているフィルム」を印象付ける。

スポーツアニメなどで、私がよく使う手です。


「転」は話が盛り上がって来て、ラストのオチつまり「結」の直前です。

ラストに向けてお膳立てが揃って、あとはコトをなすだけ、みたいな状況。

「話は終わった。さあ、おっ始めようか」となって、あとはもうそのアクションを起こすだけ、みたいなところでド派手に動かす。

それこそ文字通りの「山場」でもあります。



そのコンテでの「山場」が決まったら、あとはそこに向かって徐々に盛り上げていきます。

これはシナリオの話ではなくて、画面的なテンションという意味です。


私は「平場」という言い方をするんですが、会話が続くだけだったり、何気ない日常描写、特に大きなアクションもなく、1カットあたりの秒数が長い状況が続くようなシーン……つまり「山場」ではないところで「山場」以外の尺を埋めていくわけですが、そこでも徐々にテンションを上げていき、「山場」に入る準備をしておくわけです。


私は、この「平場」と「山場」の割合は「73」から「82」くらいが妥当と考えます。

印象としては「基本平場で少しだけ山場がある」。

もちろん、話にもよりますけど。


なぜ「山場はちょっとだけ」がいいかと言うと、「山場」が多いと疲れるからです。

「緊張疲れ」というか、驚きが薄くなるんですよね。


「山場」「平場」という言葉でいうなら、ずっと続く「山場」はもう山場ではなく、単に高いところにある「平場」なんです。

「山場」の高さ(この場合、画面のテンション)を強調するためには、そうじゃない低いところをたっぷり用意しないといけない、ということです。


これを見誤ると「ただひたすらテンションが高い、何がいいたいのか分からないフィルム」が出来上がります。



前回も言いましたが、「山場」は視聴者の情報処置の効率が落ちるところです。

なので、「平場」が話の聞かせどころになります。

設定やストーリーが複雑な作品ほど「平場」が重要と言えます。


で、この「平場」をいかに飽きさせず見せ続けられるか、がコンテマンの腕の見せどころでもあるわけです。


派手なシーンに目が行きがちですが、本当に上手いコンテとは平場を平場と感じさせない、さりげないアングル選びやカット割りの技術が優れているのです。



「山場」の話、もうちょっと続きます。


では、また。



博多