2019年1月9日水曜日

「第5回神志那弘志の実践パース講座」アフターレポート

2018年12月9日(日)、「第5回神志那弘志の実践パース講座」が行われました。当初9月に予定されていましたが、台風の接近により延期されての開催です。急遽の開催ということでネット上での告知だけでしたが、50名ほどの受講者が集まりました。





今回は5月に開催したパース講座の続きということで、開講後、登壇した神志那弘志氏から早速実践の課題が出されました。フレームの右下にカメラと正対した机を描いて、教室のように並んだ机を左に描き加えていく、というものです。そうすると左の机がパース線に合わせているはずなのに、どんどん歪(いびつ)な形になって行きます。なぜかというと、画角を越えているにも関わらず、定規を使って描いているからです。人間の目(レンズ)は球体……なので歪んで(カーブして)いくはず。このように、計算や理屈だけで描くと「変だけど変なことに気付かない」ことに陥りがちです。神志那氏は「パースにとらわれず、絵を描いて欲しい」と訴えます。常に目(レンズ)が球体であることを意識して、その歪みを修正していく力(=絵を描く力)を身につけて欲しい、と。

ちなみに神志那氏は定規は使わない派だそうです。パースの補助線としては使うけど、基本はフリーハンドで直線も引くのだとか。フリーハンドで引いた線には味がある、そして、世の中には本当に真っ直ぐなものは意外に少ない、との理由からだそう。


その後、配られたテキストを基にしての実践編に入っていきます。今回のテキストは、絵コンテが2コマ、二人の少年のキャラ表と階段のある建物の美術設定です。絵コンテには階段の上と下に立つ二人の少年をそれぞれナメてのアオリとフカンのカットが描かれており、どちらも階段を描くことになります。ここで神志那氏、「キャラ表をもらったら、すぐに頭身を書きこむクセをつけた方がいいです。なぜなら、頭身が違っていると作画監督に迷惑を掛けることになるから」。


まずはコンテの1コマ目、アオリのカットのレイアウトを細かく解説しながら描いてみせる、神志那氏。最初に何を見せたいカットなのか。BGか、キャラの表情なのか、二人の位置関係なのか。カットの中での重要性を考えて、フレーム内でのキャラの配置を決めていきます。この時パースは考えずに、構図だけを考えます。重要なのは構図、構図を決めるのが先です。構図を決めたら、背景がどのくらい映ってくるか、そのカットで背景は重要なのかを考慮します。背景が重要なら構図が変わってくることもあります。そうやって構図が決まったら、キャラクターのサイズや距離感からカメラの高さ(アイレベル)を割り出していきます。カメラの高さを割り出す為には、どちらかのキャラクターを定規として使います。アイレベル(カメラの高さ)を求めたら、次に消失点を求めます。その画を撮るためにカメラをどこに置いてあるのか、を割り出すのです。


ということで、いよいよ本題の実践です。受講者はそれぞれ、定規をあちこち当てながら、真剣な面持ちで課題に取り組んでいます。と、神志那氏は現場での作業を想定してアドバイス。「きっちり寸法を測って正確にパースを取らなくてもいいです。そうやって描くべきカットは少ないです」。アニメーターとして安い単価で仕事をしていく中で、数をこなしていくためには取り捨てをしていかなければならない。今回の課題では「キャラは階段を降りない」「階上にある扉は開かない」ので大体でいいんじゃないか、雰囲気があれば、とのこと。


おかしく見えなければいい。そのための方法論であって、きっちりパースを引くような講座ではない。そのような内容は一回の講座で収まるようなものではない、と言い切ります。無駄な労力を使わないために、最低限必要なポイントを押さえることが肝要ということです。


1コマ目のレイアウトが描けた人は、続いて2コマ目のフカンのカットにチャレンジ。約半数の受講者が取り組んでいたようです。神志那氏が今度はフカン図の描き方の説明を丁寧にしていきます。消失点が画面はるか上方にあるためパース線を引くのが難しいカットとなります。また見下ろした角度がキツいため、縦方向のパースも少し意識しなければなりません。拠り所になる消失点が紙の外になってしまうため、この課題には苦戦していた受講者も多かった模様です。


と、ここでタイムアップ。神志那氏はまたしても「もう少し時間が欲しかった」。やはり特殊なアングルやシチュエーションでのパースの説明は、実践の時間も含めるとそれなりに時間が掛かってしまうということでしょう。

最後に、神志那氏は業界の現状を踏まえた上で「上手くなって困る人はいない。みんなに上手くなってほしい」と、業界関係者やアニメーターが多かった今回の受講者にエールを送ります。技術は教えられるが、センスは教えられません。センスはその人自身が元々持っているものです。でも、伸ばすことはできる。
素晴らしい映画や芸術作品、デザインなどに触れ、常にアンテナを張っておくことが大事だとのことでした。


そして、受講者からの温かい拍手の中、パース講座は無事終了しました。

その後は恒例の懇親会があり、受講者同士だけでなく、あにれくスタッフとも交流を深めていたようでした。

改めて、受講していただいた皆様には、スタッフ一同より御礼を申し上げます。
ありがとうございます。