2014年1月2日木曜日

第1回「アニメ界に入る 序」

 思いもよらず自分が70才になったと知ることとなる。13年5月、通院している近所の医院で支払いの際、金額の安さに驚き間違いではないか確認すると、受付の女性に「あ、奥田さん後期高齢者になられましたから保険がお安くなりました……」とニッコリされる。「後期高齢者!?」エコーを伴って頭の中を駆け巡る。そうか、俺は後期高齢者なんだ……納得は行かないが納得するしかない現実を突きつけられて医院を後にする。夏が近づいた日差しが午前中だというのにやけに暑い。甲州街道の信号を渡りつつ「後期高齢者……老人って事だ」けっこう大きなショックが来た。

 老人であることとは関係ないが、最近色々と気付いたことがある。自分が膨大な数の絵コンテを描いてきたこと。「鉄人28号」「宇宙エース」「鉄腕アトム」TVアニメ創世記のこの3作品にリアルタイムで関わったのは私だけだということ。誇るつもりはない。ただ移り気と偶然の巡り合わせがもたらした結果だ。どの作品も楽しく苦しくそして私にとっての青春そのものであった。その日常の中には作品に関わった者だけが知ることの出来る面白さ楽しさがあった。TVアニメの真実を書き残したくなった。

 何故なら誰もそのような無駄と思えることに時間を費やしていないからだ。そのような記録は残していないからだ。

 恵まれた才能とチャンスを生かしスターとして君臨する人。才能はあったがチャンスに恵まれなかった人。どちらも無かった不遇な人。(不遇かどうかは誰も判らないが……)
だが、誰もが等しくアニメ界を支えてきた。そしてみんなアニメが好きだった。
長く中庸のアニメ人生を送ってきた私にはそれを書き残す資格があるのではないかと思うに至った。

奥田誠治  2014/01/02